最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)216号 判決 1967年10月31日
上告人
内藤三郎
被上告人
野田隆男
被上告人
宮内敏平
被上告人
伊藤よしの
右宮内、伊藤訴訟代理人
大橋茂美
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由第一、二点について
昭和二五年当時本件建物の敷地二〇五坪九勺および隣地四〇〇坪は訴外佐藤の所有で、名古屋市復興土地区画整理事業の施行者である名古屋市長は、右土地に対し、四〇二坪二合七勺を仮使用地として指定したが、同二八年本件建物の敷地二〇五坪九勺が上告人の所有となり、右隣地中三〇〇坪は同三六年訴外高橋時男の所有となつたため、将来右各土地については、各所有者ごとに仮換地が指定される予定であつたこと、上告人が建物賃借人らの同意を得て本件建物を移転することができないときには、同市長は土地区画整理法に基づいて移転通知を発し、右通知の移転期限経過後は強制的に仮換地指定地上に本件建物を移転する工事を実施する区画整理計画を予定していたこと、そして、同四〇年三月になつて、同市長は、本件建物の敷地二〇五坪九勺の仮換地として東六区一二三ブロック八番一六一坪を指定し、本件建物を同年七月三一日までに所有者(上告人)において仮換地上に移転すべく、上告人がこれを行なわないときには、施行者名古屋市長が曳去工法により右移転を実施する旨上告人、被上告人らに通知したことは、原判決が適法に確定した事実である。
そうとすれば、特段の事情の認められない本件においては、本件建物はこれをとりこわすとか、あるいはその同一性を失う程に一部を切りとり除去するとかの方法によらないで、これを仮換地上に曳き動かして移転きせることができると認めるのが相当である。右のように仮換地の指定がされて従前の土地上の建物を仮換地上に移転させることができると認められる場合に、建物の賃借人の同意がないときは、その建物が、朽廃に近いため移転させるにつき相当の費用を要するに、移転後の建物の残存価値が少ない等その他特段の事情のない限り、土地区画整理法九〇条を準用して、従前の建物の賃貸人はその賃借人に対して、建物を任意に移転させたうえ、その移転建物につき、あるいは事業施行者の移転せしめた建物につき、賃貸借を継続する義務を負うものと解するのが相当である。したがつて、右特段の事情の認められない本件において、仮換地指定等により賃貸借契約が履行不能になつたとの上告人の契約解除による明渡請求を排斥した原判決の認定判断は相当である。所論は原判決を正解しないで、独自の見解を述べるものであり、原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄)